どどど

だっしゅつ

コゲ

 

 砂糖を焦がした。ので、いちにちじゅう鍋底のコゲを落としている。
 ホーロー鍋のコゲはどうやって落とすんだろう…と、自分で思いついたことをある程度やってから、
「もうこれ以上は埒があかない!」
 という段階になって、ネットで検索をした。
 ホーロー鍋、まで、検索欄に入れたところで、もう続きがでてきてくれた。
「ホーロー鍋の焦げの落とし方」

 人さし指の爪が、コゲに負けて削れているのに気がついた。
 さらにその隙間から、コゲのかけらが入ってくると、めちゃくちゃ痛い。
 コゲ、恐るべし。コゲ、頑固。

 今は、コゲを落とすために鍋に水と重曹(なかったのでベーキングパウダーにしたけど問題なくコゲがとれていっている)を入れて沸騰させたあと冷ましている段階で、かつ、ケーキの焼けるのを待っている時間でもある。

 寒くなると、バターを事前に常温にしておくのにも時間がかかるので、最近はもっぱらオイルでケーキ作りをしていた。作りたいときにすぐ作れるから。
 でも今日は、さつまいもを使ってケーキを作るつもりで、さつまいもと何を組み合わせようかいろいろ考えたものの、今回はシンプルに、オイルをバターに変えることにした。
 焼けているときの匂いが全然ちがう。生地を混ぜているときの重さも違ったし、生地のとろみも違った。

 今まででいちばん、くらい、すきなケーキが焼けた。いちばん、って思ってしまうほど。
 別のさつまいもだとまた別の感じになるだろうからな。今回だけだ。
 バターのパワー。焼けた側面がてりっとぱりっとしている。オイルではこうならない。
 中身によっては、このバターの感じが、くどくなることもあるんだろうし。

 あー、でも、やっぱり、そろそろスパイスのケーキ作りたい。
 バターと、ドライフルーツと、スパイス。かなあ。
 もしも来週ほかに作りたいものがでてきたら、また、変わるだろうけど。

 昨日は本屋さんで本を買うことにしていたので、本、本、と思って動いていた。
 ほしい本があるときは、なんでもある本屋さんにいくのがいいんだろうな、と思った。
 あそこならなんでもある、と思う本屋さんがあって、そこに行った。とても楽しい。
 棚をぐるぐるまわって、文庫本なら作者さんのところを目で追ってはほしいタイトルを探して、なかったら他の出版社の棚へ動いて、…をくり返す。出版社もわかっていれば楽だけれど、まあ、昨日は検索機を使うほど急いでもなかったし、スマートフォンを取り出して調べるとしたらまあ、ひと通り見てからだな、と思っていたら見つけた。川上弘美さんの『大きな鳥にさらわれないよう』。
 去年の秋に、ちょっとしたきっかけで、少しだけ読んで、そのときは、他の本もちょっとしたきっかけがあってそちらを買っていた。少しだけ読んだだけなので、断片的な印象しかなかったものの、「これはなんだろう、すごく不思議な話…」と思っていた。
 文庫を見つける前に、ふっ、と、「雑誌は…」と棚を見上げてみたら、ブドウの表紙が目に入って、あ、と手に取った。ほしかった、「スピン」。最果タヒさんの詩が載っている。
 あとひとつは別の場所にあるはずなので、フロア内で大きく動く。その途中にも、積まれた本にちらちらと目をやる。今思い出そうとしても思い出せないけれど、もしも次にどこかの本屋さんで同じ、少し気になった本を見つけたら、思い出すだろう。それで、買うこともあるかもしれない。
 詩とか短歌とか、韻文とくくったらいいのか、そういう棚にたどり着いて、背表紙を眺めて「ほんとうにいろんな方の作品がそろっているな」と思いながら、めあての『恋できみが死なない理由』をみつけた。これも最果タヒさんで、こちらは詩ではなく、いわゆるエッセイにあたる文章が集まっている。
 タヒさんのエッセイは、エッセイだから、書いた人の温度があるのだけど、それでいてとても遠くもあって、その遠さはあまり気にならない、遠くても今その言葉は手元の本にあるし、という気分になる。どれだけエッセイを読んでも、タヒさんの実像は結ばれず、それがかえって心地いい。

 コゲは結局落ちきっていなくて、なんなら他の指の爪も少し削れてしまった。
 時間がやたらかかってしまって、少し心が荒れている。めんどうだな、と思う。
 この文章を書いている間に、スープを火にかけていたのだけど、気持ちよく書いていたらそのことを忘れていて、何をやってるんだろう、とざわざわした。
 書くネタにもなるし、コゲの落とし方も学べたし、とか、そんなさっくり切り替えられず、おもしろがっている自分もいるものの、やっぱり、うまくいかないのはつらい。
 仕方ないので、日記を書いて、本でも読む。コゲは明日、重曹を買ってきて続きをする。
 今日のうちにぜんぶをやろうとした、今日や明日とかそのまた未来の話をしたくなったけど、これ以上書くと大変なので、今日はここまで。

 

 

追記:

 寝る前に鍋をみたら、コゲが勝手に剥がれてきてて、残ったコゲはかわいいものくらいになってた。ほっとして笑いました。

 ホーロー鍋、大事に使ってるから、すごいどきどきした。それでもまたキャラメルは作る。